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愛媛出身の墨絵アーティスト・茂本ヒデキチさんインタビュー

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愛媛出身の墨絵アーティスト・茂本ヒデキチさんのインタビューの模様をお届けします。
墨絵という表現技法に至った経緯、ライブぺイントへの思いについて迫りました。

茂本ヒデキチさんは愛媛県松山市出身。墨を用いた作品を得意とする「墨絵アーティスト」として活動している。
作品のモチーフは従来の墨絵では表現されない題材が多く、墨絵の概念を覆す独自のスタイルが国内に留まらずNYでも高く評価されている。

また、短時間で何枚もの絵を同時に描いていく独特なスタイルのライブペイントも話題をよび、国内外でパフォーマンスを行う。
愛媛県内では松山城ロープウェー駅舎や、坊っちゃん球場に作品を提供しており、雑誌表紙やアーティストのCDビジュアルを手掛けるなど幅広く活動を行っている。

自らを売り出すために見つけた「墨絵」という表現

――茂本さんは元々イラストレーターとして活動されていたということですが、どのような経緯で「墨絵アーティスト」に転身されたのでしょう。

「イラストレーターではなく、”アーティスト”として自分のタッチを持って活動したい」と思ったことがきっかけでした。
イラストレーターは匿名性の仕事なんですよ。ポスターや広告などにイラストが使われても、誰が描いたものか明かされることはほとんどありません。
クライアントから「今人気のイラストレーター風に描けないか」というような依頼がくることもあります。

世間に自分を知って貰えず、自分の個性が求められないことに「このままでいいのか?」という疑問を感じて、アーティストへの転身を決めたんです。

それで自分のタッチを見つけるためにいろいろと試行錯誤した結果、辿り着いたのが墨絵でした。
イラストレーター時代に、黒人をモチーフにした絵を多く描いていたので、それを墨絵の筆に持ち替えて描いてみたんです。
そうすると、今思えばたまたまだったかもしれませんが、いきなり凄くいい作品ができたんですよ。

そこで、これまでより能動的に自分の絵を売り込むなら肩書を「イラストレーター」とするよりも、なにか他の名前がいいと思って。
墨絵とアーティストを組み合わせて「墨絵アーティスト」という風に名乗るようになりました。

オーディション番組「ASAYAN」をきっかけに世界へ

――墨絵アーティストとして本格的に活動をはじめたきっかけはありましたか?

2000年頃にテレビ東京で放送されていた「ASAYAN(アサヤン)」という番組で入賞したことですね。
若いアーティストのための新人発掘コーナーがあったんです。
当時僕はもう40歳ぐらいでしたから、若者の番組に出るのは抵抗がありましたが「もし優勝すれば世界に自分の絵を発信できるかも」と思い出演しました。

すると、総数6000人ぐらいの応募作品の中から僕の作品が選ばれたんです。
その後にNYで個展を開いたりして、「墨絵アーティスト」としての活動を始めました。

道具へのこだわり

――墨絵を描かれる際、最も大切になさっていることはありますか?

道具のことからお話すると、筆にあまりこだわりません。
おろしたての筆で書くのが一番いいと思っているので、普通の書道筆を大量に買います。

――おろしたての筆は硬いと思うのですが、描きにくくはありませんか?

それがいいんですよ。最初は硬くて、使うほど柔らかくなってくる。そのタッチの違いを出したいんです。
自分好みに鋏でカットすることもあるので、筆は気軽に扱える安いものがいいですね。

でも、紙にはこだわります。紙によって、かすれ具合や滲み具合が全然違ってくるので墨絵は紙が命だと思いますね。
普段は「画仙紙」という中国の水墨紙を気に入って使っています。

――愛媛産の紙を使われることもあるのでしょうか?

そうですね。手すき和紙を作っている愛媛のご夫婦と個展で知り合ってからは、そちらの「手すき和紙」を使うこともあります。

1枚の作品のために描く「見えない99枚」

――道具以外にもこだわりはありますか?

書道のように繰り返し同じ絵を描くということですね。これに一番こだわっています。
「1枚の絵を描くのにどれぐらい時間が掛かってるんですか?」と聞かれるんですけど、皆さんがご覧になる絵は5分もかからないで描いているんですよ。
でも、その1枚の絵を描くために99枚ぐらい同じ絵を描くんです。

――一つの作品のために100枚も描くんですか! それは何故でしょう?

僕は「ゾーン」と呼んでいますが、90枚目ぐらいのところで絵が変わってくる。何かが”降りてくる”んですよ。
それで、最後の1枚を5分で描く。本番に望むんですよね。
もちろん99枚の中に凄くよく描けたものがあれば、それを手本に描くことはありますが、作品になるのは最後の一枚だけなんです。

――それだけの労力を必要とするのに「すぐに描けるんでしょ」と思われてしまうのは悔しいですよね。

そうですね。でも、みなさん僕の作品を見ると「5分で描いたとは思えない」って驚かれます。だからその努力は報われているのかなって思いますね。

1枚の絵に掛かる時間は5分ですけど、それを20年以上も続けているわけですから。かかっている年数の重さというのも絵に現れてくるんでしょうね。

――オフの期間でも絵を描かれますか?

ドローイングは毎日描きますね。一日描かないと技術が落ちますし、元に戻すにはかなりの時間が掛かるんです。
だから、旅行で一週間ほど絵を描かないというような期間があると、不安でしょうがなくなりますね。

僕にとってドローイングは、絵に向かう精神力や、どのような状況でも絵を描けるメンタルを維持することに繋がるものなんです。

――そんなにストイックにされているんですね!

でも、ストイックなのは絵に関してだけですよ。生活は規則正しくて、他を疎かにしてまで絵を描くというわけではないんです。
毎日10時に起きて絵を描いて、18時にはもう晩酌をしていますから。会社員のような生活ですね。

なぜ「人」を描くのか

――人物を描かれることが多いように思いますが、それは何故ですか?

それは人間の肉体と僕の絵柄が凄くマッチしているからです。
墨がついた筆は紙の上でずっと止めていると滲んでしまいます。
綺麗な線を引くにはスピード感が必要な画材なんです。だからこそ、肉体の陰影や躍動感を描くのに向いているんですよ。

それと単純に、人間の肉体に興味を惹かれるというのも一つの理由ですね。人種や職業で肉体に違いが出るというところにも面白さを感じるんですよ。
アスリートもスポーツによって体つきが変わるでしょう。オリンピックとかを見ていてもやっぱりそこに目がいくんですよね。

――墨絵を始められた当初は黒人を多く描かれていたとおっしゃっていましたが、それはやはり肉体が魅力的だからでしょうか。

そうですね。元々ジャズが好きで黒人をよく描いていたんですよ。
肉体の陰影を墨で表したら面白いな、と気が付いたのも黒人を描いていたことがきっかけです。

NYの個展で黒人男性を描いた絵を展示していると、黒人の方に「君は何で俺らばっかり描いているんだ?」とよく聞かれることがよくあったんです。
ときには「ゲイなのか?」なんて言われることもありました(笑)
そういう時には、「君たちは東洋や日本の精神的な部分に憧れてくれるじゃないか。その反対に僕は君たちの肉体、フィジカルな部分に惹かれる。単純に美しいと思うんだ。」というに答えていたんですよ。
そうすると彼らは「なるほど、凄く分りやすいね」と感心をしてくれるんですけど。

やっぱり彼らの肉体は美しいじゃないですか。ソリッドな肉体というか、そういうものに魅力を感じるんですよね。

子供からお年寄りまで感動してもらえるライブペイント

――茂本さんのライブペイントはとても独特だと思うのですが、今の方法はどのようにして生まれたものなのでしょうか。

誰にでも分かりやすくて、誰もが感動してくれるようなライブペイントをやりたいと思って作り上げたのが今のパフォーマンスです。

元々は、大きな1枚の紙を垂直に立てて描いていました。そうすると描いている最中は自分が邪魔になってお客さんには絵が見えないので、途中で横にはけるようにしていたんですね。
でも、その間に絵が描けるんじゃないかと思って、2、3枚の絵を並行して描くようになりました。

下書きなしに同時進行で絵を描いていると、途中の状態は抽象画のように見えるのに、描き進んでいくと次第に何が描かれているか分かってくるんですよ。
そうすると、徐々に絵が出来上がっていくのを見てみなさんが喜んでくれて。ライブペイントの時間を観客と共有できるように感じたんです。
次に、パーツをバラバラに描いていくことを思いつきました。たとえば人物画なら足から描いたりとか。

人を描く場合は頭から描くとすぐに人間を描いていることがバレてしまうので、できるだけ最後に頭を描くようにしてます。
この方法だと、初めて僕のライブペイントを見た人は想像もしなかったような作品が仕上がることに感動してくれるんですよ。
そのあと何度も足を運んでもらうと、今度は何を描いているのか推理するという楽しさを感じてもらえるようになるんですね。

――なるほど、下書きなしにいろいろなパーツから描くんですね。大きな作品だとパーツとパーツの距離の取り方などが難しいのではないですか?

確かに下書きなしでデッサンが狂わないように大きな絵を描くのは難しいことですが、そこで役立ってくるのが先ほど話した100枚のドローイングなんですよ。

何度も何度もドローイングを描き続けていると、もう手が覚えているから、いくら作品が大きくなったとしてもバランスはとれるんです。

――やはり職人技というか、それだけドローイングを積み重ねられているからこそできることなんですね。

そうですね。僕は「理解できない芸術こそが偉い」とは思っていなくて。

もちろんそういう方を否定するわけではありませんが、誰がみても「なるほどな」と思うような人を納得させられる説得力のある絵を追求しているんです。

子供が見てもお年寄りが見ても海外の方が見ても、「凄い!」と思ってもらえるようなライブペイントをしたいですね。

モチーフはどのように決めているのか

――ロープウェー乗り場や護国神社の絵馬など、愛媛県の様々なところで茂本さんの墨絵を見かけますが、依頼があった際に、絵のモチーフとなるものはどのようにお決めになっているのですか?

愛媛での仕事が多いのは、クライアントの方が僕が愛媛出身というのをご存知で懇意にして下さっているというのも一つの理由ですが、松山市って「文学のまち」じゃないですか。

それが、僕の絵のタッチによく合うんですよね。だから最近松山で需要が増えてるのかなと感じます。

ついには「坊っちゃん列車ミュージアム」に僕が描いた坊っちゃん列車の絵が飾られたりとか。

松山市2番町のカウンターbar「g」にも絵を置いて頂いてます。あとは坊っちゃん球場にも。

だから、僕の原画巡りをするとしたら松山市内だけでも10箇所ぐらいあると思いますね。

――東京オリンピック関連のお仕事もなさっておられますよね。

そうですね。1000日前イベントでスカイツリーの上で、ライブペイントをしましたね。


それと、羽田空港の外看板の絵も描かせて頂きました。羽田空港に看板を出すことは安全面の関係で規制されていて、今回が50年ぶりなんだそうです。

2020年まで飾られることになっていますので、機会があればぜひご覧になってください。

アジア独特の文化「墨」を世界各地に広めたい

――世界へ作品を発信する時に意識されていることはありますか?
アジア独特の文化である「墨」をアピールしたいですね。だから世界各地でライブペイントをするときには、合わせてワークショップも開催しているんですよ。
墨というものが身近な画材で、誰でも気軽にチャレンジできるものだと伝えていきたいです。

それと、絵というものは国境がないものですから、なるべく沢山の方に見てもらいたいですね。
まずは僕の絵を見てもらって、何かを感じ取ってもらって、それから一歩踏み込んで墨という画材にも興味をもってもらえるといいかなと思います。

愛媛を世界に発信するためには

――愛媛県を日本、世界に向けて発信していくためには、どのようなアピールが必要と考えますか?

今流行りの物を愛媛にもってくるというよりも、愛媛産の物をもっと外に向けてアピールしていく必要があると思います。

道後にある「飛鳥の湯」の個室は、全室愛媛の職人さんの作品で構成されているんですよ。
若い職人さんが伝統工芸を現代風にアレンジをされているからでしょうね。その作品が道後に凄くマッチしているんです。
愛媛県の手に職をもった人に目を向けて、その人たちの援助をすれば、もっと世界に誇れるものになるんじゃないかなと思いますね。

それと、愛媛の「郷土愛が強い」という県民性を利用することも必要だと思います。
愛媛から県外に出た方って地元を誇りに思っている方が多いですよね。それって凄くいい県民性だと思うんです。
その人たちが愛媛関連のイベントを開催したりして愛媛をアピールすればもっと魅力が広まるんじゃないかなと。
僕も愛媛が頑張っていることなら応援したいと思います。もちろん海外にもライブペイントに行きますが、やっぱり自分は愛媛出身なので、愛媛の仕事もしたいなと思いますね。

今、茂本ヒデキチが描きたい「愛媛」とは?

――愛媛に関係するもので今後描いてみたいと思うモチーフを教えてください。

正岡子規から秋山兄弟まで人物はほとんど描きましたから、今後は風景を描いてみたいですね。たとえば瀬戸大橋とか。

島なんかもいいと思います。この間ちょうど長澤まさみさん主演の「嘘を愛する女」という映画を見たんです。

今治が舞台になっているんですが、風景が本当にきれいだったんですよ。そういう愛媛を代表する風景を描いてみたいとは思いますね。

今後の展望

――今後の展望を聞かせてください。

具体的な目標としては2つあります。まず一つ目は、大規模な展示を愛媛でやること。

先日、大阪芸大所有のスペースで新体制展のような展示をしたんですが、その会場が100点飾ってもまだスペースが余るような物凄く広いところだったんです。
今まで僕が描いてきた仕事やドローイングを全てそこに展示して、一つの到達点がみえたんですね。
だから、それぐらいの規模の展示を愛媛でもできればいいなと思っています。

2つ目は、ライブペイントをもっと大きな規模でやりたいということですね。

今までは3枚ぐらいの紙に描いていたんですが、和紙で巨大な円を作ってもらってその中で描くというのをやりたいなと。
後ろから絵を描き上げていって、3Dのようにどんどん作品が出来上がっていくイメージです。三味線なんかの生演奏とかもあって。
その様子をカメラで撮影して、絵巻物みたいに絵が出来上がっていく……「究極のライブペイント」を作り上げたいですね。

具体的でないものとしては、究極の墨絵というか、今までやってきたものを踏まえて僕にしか作れない墨絵をつくりたいです。
今までは1000人ぐらいの人に「いいね」と言ってもらえたものを、10人ぐらいで構わないので本当に評価と言ってくれる人へ向けた作家性のある絵を描きたいと思いますね。
自分の好きな人たちに好きといってもらえること。それがやっぱり作家冥利に尽きることだと思うんですよ。

まとめ

サインをお願いしたところ、マジックで墨絵風に絵を描いてくださいました✨ 茂本さんは、とっても優しくて紳士的で素敵な方でしたよ。

茂本さんについては下記の記事でもご紹介しておりますので、こちらもチェックしてみてくださいね。

「作品を見てみたい!」と思った方は茂本さん初の画集「NEO BLACK」もぜひご覧ください。

茂本ヒデキチ(シゲモトヒデキチ)
1957年生まれ 愛媛県松山市出身 東京在住
大阪芸術大学デザイン科を卒業後、デザイナーを経てフリーイラストレーターに転身。
墨を用いた作品を得意としており、独自のスタイルが国内に留まらずNYでも高く評価されている。
自らの個展やイベント会場で行うライブペイントでも話題をよび、日本やロシア、オランダなど国内外でパフォーマンスを行う。
「TARZAN」、「PEN」といった雑誌表紙や、「久保田利伸」などのアーティストとのコラボ作品でも有名。
現在は東京2020に向けた作品の制作や、ライブペイントなどの活動も行っている。

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